アンボセリへ向かうはなし [ケニア旅行]
12月26日、8:30。
ナイロビ市街のホテルを出発。
日曜日だから、道がすいているんだとドライバーさんは言った。
平日はものすごい渋滞で、ナイロビを抜けるのにずいぶん時間がかかるらしい。
とはいっても、デュッセルドルフ市街の道よりは混んでいる気がする。
しかし、しばらく走るうち、
みんなが好き勝手な車線を走っているので、ごちゃごちゃしているだけだと、気がついた。
よく見れば、車の量はそれほど多くない。
道路沿いに、トタンで作った小さな家がいくつも建っている。
「ほったて小屋」、
言葉は知っているが、実際に見たのは生まれて初めてかもしれない。
長屋のように、何軒かが隣り合って建ち、
家の前では裸足の子供が棒をもって遊び、
木と木の間につった、ヒモにカラフルな洗濯物がはためいている。
太陽がぎらぎらまぶしくて、おではさっきから暑くて仕方ない。
ほったて長屋の洗濯物は、きっとあっという間に乾くだろう。
なんだか、戦後の日本に来たみたいだ。
はなしに聞いただけで、そこにいたことなんか、ないけれど。
自分の日常と全く違う、生活がスライドのように流れる車窓をながめて、
うすぼんやりといろいろなことを考えていたら、
いつの間にか寝ていた。
ドライバーさんが何か言うのが聞こえて、目を覚ます。
OK、と返事をした、おとっつあんに尋ねると、
「この先のお店で休憩するって、安全な店だから大丈夫だって。」
ちゃんと起きていたらしい声で、教えてくれた。
ここにくるまでに何軒もお店があったし、
今も道路沿いにいっぱいお店があるけど、
そうか、あれは「安全じゃない店」なんだ、と思う。
安全な店
安全な店の客は、ヨーロッパ系の観光客ばかりだった。
そういえば、車窓から眺めた、店には黒人しかいなかった。
おでらはきっと、あの店には入れないんだろう。
安全な店をでて、しばらく走ると、あたりは草原の雰囲気になってきた。
たまに人もみかけるが、
それは牛飼いのひとや、羊飼いのひとたちで、
人よりも、動物率が高くなってきた。
ほったて小屋も、安全じゃない店も、もう見えない。
アンボセリ国立公園は、もうすぐだ。
(つづく)
ナイロビ市街のホテルを出発。
日曜日だから、道がすいているんだとドライバーさんは言った。
平日はものすごい渋滞で、ナイロビを抜けるのにずいぶん時間がかかるらしい。
とはいっても、デュッセルドルフ市街の道よりは混んでいる気がする。
しかし、しばらく走るうち、
みんなが好き勝手な車線を走っているので、ごちゃごちゃしているだけだと、気がついた。
よく見れば、車の量はそれほど多くない。
道路沿いに、トタンで作った小さな家がいくつも建っている。
「ほったて小屋」、
言葉は知っているが、実際に見たのは生まれて初めてかもしれない。
長屋のように、何軒かが隣り合って建ち、
家の前では裸足の子供が棒をもって遊び、
木と木の間につった、ヒモにカラフルな洗濯物がはためいている。
太陽がぎらぎらまぶしくて、おではさっきから暑くて仕方ない。
ほったて長屋の洗濯物は、きっとあっという間に乾くだろう。
なんだか、戦後の日本に来たみたいだ。
はなしに聞いただけで、そこにいたことなんか、ないけれど。
自分の日常と全く違う、生活がスライドのように流れる車窓をながめて、
うすぼんやりといろいろなことを考えていたら、
いつの間にか寝ていた。
ドライバーさんが何か言うのが聞こえて、目を覚ます。
OK、と返事をした、おとっつあんに尋ねると、
「この先のお店で休憩するって、安全な店だから大丈夫だって。」
ちゃんと起きていたらしい声で、教えてくれた。
ここにくるまでに何軒もお店があったし、
今も道路沿いにいっぱいお店があるけど、
そうか、あれは「安全じゃない店」なんだ、と思う。
安全な店
安全な店の客は、ヨーロッパ系の観光客ばかりだった。
そういえば、車窓から眺めた、店には黒人しかいなかった。
おでらはきっと、あの店には入れないんだろう。
安全な店をでて、しばらく走ると、あたりは草原の雰囲気になってきた。
たまに人もみかけるが、
それは牛飼いのひとや、羊飼いのひとたちで、
人よりも、動物率が高くなってきた。
ほったて小屋も、安全じゃない店も、もう見えない。
アンボセリ国立公園は、もうすぐだ。
(つづく)
ナイロビのはなし [ケニア旅行]
おでたちが乗った、飛行機は定刻どおりナイロビ空港に到着。
ナイロビ空港に降りたのは、もちろん初めてのこと。
だけど、これと似た場所を知っている、気がする。
「インドネシアでしょ?」、おとっつあんは言ったが、そうじゃない。
確かにインドネシアとも似ているのだけど、もっと身近な、どこかで、
インドネシアより、もっと似ている、どこか。
免税店とみやげ物屋が並ぶ、通路をバゲージクレームへ向けて歩く。
木彫りのお面を天井からいくつもぶら下げている、みやげ物屋の前を通りながら、
あのお面も、そのどこか、ここに似た場所で見た気がする。
しばらく、頭のはしっこで考えていたが、
ゲートを出て、旅行会社のひとと対面し、
旅行中ずっとおせわになる、ドライバー兼ガイドのひとを紹介してもらい、
では、さっそくホテルに向かいましょうと、車に乗ったら、
そのことは、忘れてしまった。
というか、そんなことを考えている余裕は、なくなった。
ホテルまで30分のドライブで、おでの寿命は30時間くらい縮んだと思う。
無理な追い越し、車線変更はあたりまえ、
クラクションを鳴らしながらアグレッシブに走る、車たち。
おでたちを乗せた車も、そのカオスの中をするすると走っていく。
横断歩道がないので、
道を渡ろうと、車の途切れるタイミングを待つひとが、あちこちに立っている。
もし手を伸ばせば、走っている車に確実にぶつかる、そのくらいに近くで。
危ない、兆、危ない。
チキンハートなおでは、さっそく不安になっていた。
今日は空港-ホテル間だけのドライブだが、
明日は、8:30出発で12:00頃まで車移動、
旅程表を見れば、移動は4回もあるじゃないか。
そのたびに、こんなドキドキに耐えねばいけないのか。
心臓に悪いじゃないか。寿命が縮むじゃないか。
心配だ、兆、心配だ。
シャワーを浴びてさっぱりして、夕飯を食べて、
そのあいだも、頭のはしっこでネガティブな心配をつづけていたが、
横になったら、しかし、すぐにすとんと眠ってしまった。
そして、夢を見た。
おでは、「ケニアに行ってくる」と言って、なぜか中央線に乗っている。
どこかの駅で降り、アーケードをスーツケースを引きずりながら歩いていく。
アーケードのどん詰まりに、ナイロビ空港はあった。
薄暗い空港を歩きながら、やはり「どこかに似ている」と思う。
それとも、ここがナイロビ空港に似ているのか?
そして、やっと気がついた。
おでがいるのは、中野ブロードウェーだった。
(つづく)
ナイロビ市街の公園
ナイロビ空港に降りたのは、もちろん初めてのこと。
だけど、これと似た場所を知っている、気がする。
「インドネシアでしょ?」、おとっつあんは言ったが、そうじゃない。
確かにインドネシアとも似ているのだけど、もっと身近な、どこかで、
インドネシアより、もっと似ている、どこか。
免税店とみやげ物屋が並ぶ、通路をバゲージクレームへ向けて歩く。
木彫りのお面を天井からいくつもぶら下げている、みやげ物屋の前を通りながら、
あのお面も、そのどこか、ここに似た場所で見た気がする。
しばらく、頭のはしっこで考えていたが、
ゲートを出て、旅行会社のひとと対面し、
旅行中ずっとおせわになる、ドライバー兼ガイドのひとを紹介してもらい、
では、さっそくホテルに向かいましょうと、車に乗ったら、
そのことは、忘れてしまった。
というか、そんなことを考えている余裕は、なくなった。
ホテルまで30分のドライブで、おでの寿命は30時間くらい縮んだと思う。
無理な追い越し、車線変更はあたりまえ、
クラクションを鳴らしながらアグレッシブに走る、車たち。
おでたちを乗せた車も、そのカオスの中をするすると走っていく。
横断歩道がないので、
道を渡ろうと、車の途切れるタイミングを待つひとが、あちこちに立っている。
もし手を伸ばせば、走っている車に確実にぶつかる、そのくらいに近くで。
危ない、兆、危ない。
チキンハートなおでは、さっそく不安になっていた。
今日は空港-ホテル間だけのドライブだが、
明日は、8:30出発で12:00頃まで車移動、
旅程表を見れば、移動は4回もあるじゃないか。
そのたびに、こんなドキドキに耐えねばいけないのか。
心臓に悪いじゃないか。寿命が縮むじゃないか。
心配だ、兆、心配だ。
シャワーを浴びてさっぱりして、夕飯を食べて、
そのあいだも、頭のはしっこでネガティブな心配をつづけていたが、
横になったら、しかし、すぐにすとんと眠ってしまった。
そして、夢を見た。
おでは、「ケニアに行ってくる」と言って、なぜか中央線に乗っている。
どこかの駅で降り、アーケードをスーツケースを引きずりながら歩いていく。
アーケードのどん詰まりに、ナイロビ空港はあった。
薄暗い空港を歩きながら、やはり「どこかに似ている」と思う。
それとも、ここがナイロビ空港に似ているのか?
そして、やっと気がついた。
おでがいるのは、中野ブロードウェーだった。
(つづく)
ナイロビ市街の公園
出発のはなし [ケニア旅行]
12月24日、デュッセルドルフは大雪。
「ホワイトクリスマスね、すてき。」
なんつって、かわいらしく喜べれはよいのだが、
おではウキウキするどころか、「雪野郎、早くやまねえか」とイライラしていた。
おとっつあんはもっと、カリカリしていた。
眉間にしわを寄せて、パソコンの画面を見つめている。
「14:40発の便が、まだ出発しない。」
おでたちが乗る、飛行機は20:45発。
現在、そろそろ空港へ向かおうか、という時間になっている。
それなのにひとつ前の飛行機が、まだ飛んでいないのだ。
今日のヨーロッパ便は、早々にすべてキャンセルになっていた。
とりあえず現在のところ、おでたちの乗る便はキャンセルされていないものの、
確実に飛ぶかどうか、怪しいところだ。
困って顔を見合わせるが、雪はだんだん小降りになってきているし、
出発が遅れることはあったとしても、たぶん飛ぶはずだ。
いやたとえ飛ばないとしても、とりあえず空港に行こうじゃないか、というはなしになった。
ところが、いつもなら電話すれば、びっくりするほど早く来てくれるタクシーが、
大雪のせいでなかなか来ない。
この調子だと飛行機も遅れるだろうなあと、おとっつあんを見ると、
めちゃ不安げな顔をしている。
そりゃそうだ。
おとっつあんはこの旅行をめちゃめちゃ楽しみにしていたのだ。
個人旅行では行きにくい地域のため、
団体ツアーが苦手な、おでは全く乗り気じゃなかった。
衛生状態が悪くて、生水の飲めない地域だから、
お腹の弱い、おではきっと一日中便所にこもることになるだろう。
便所といえば、それも大問題だ。
大草原で便意をもようしたら、やはり、野グソしかないだろう。
もし、尻まるだしにしている状態で、ライオンに遭遇したら?
瞬発力と運動能力が人並み外れて劣る、おでは、食べられるしかないだろう。
「いやだ、まだ死にたくない!」
ネガティブな仮説を立て、行くのはやめようと、説得を何度か試みたが、
おとっつあんは折れなかった。
団体ツアーじゃなくて、ガイド兼運転手さんがおでたちに同行する形だし、
宿泊するロッジは近代的で衛生面には、全く問題ない。
これなら団体行動が苦手で胃腸が弱いおででも大丈夫だから、
と、逆に説得されて、折れたのはおでのほうだった。
やっと、やってきたタクシーで、到着した空港はひとけもまばら。
今日の便のほとんどがキャンセルなのだから、当然なのだけれど、
ひとけのない空港に不安を煽られる。
しかしながら、どうやらおでたちの便は無事に飛ぶようだ。
しかも、時間通りに。
20:40発、ドバイ行き。
そして、ドバイ空港で乗り換える。
ケニアには明日の15:00に到着。
それが、今回のフライトスケジュールだった。
(つづく)
「ホワイトクリスマスね、すてき。」
なんつって、かわいらしく喜べれはよいのだが、
おではウキウキするどころか、「雪野郎、早くやまねえか」とイライラしていた。
おとっつあんはもっと、カリカリしていた。
眉間にしわを寄せて、パソコンの画面を見つめている。
「14:40発の便が、まだ出発しない。」
おでたちが乗る、飛行機は20:45発。
現在、そろそろ空港へ向かおうか、という時間になっている。
それなのにひとつ前の飛行機が、まだ飛んでいないのだ。
今日のヨーロッパ便は、早々にすべてキャンセルになっていた。
とりあえず現在のところ、おでたちの乗る便はキャンセルされていないものの、
確実に飛ぶかどうか、怪しいところだ。
困って顔を見合わせるが、雪はだんだん小降りになってきているし、
出発が遅れることはあったとしても、たぶん飛ぶはずだ。
いやたとえ飛ばないとしても、とりあえず空港に行こうじゃないか、というはなしになった。
ところが、いつもなら電話すれば、びっくりするほど早く来てくれるタクシーが、
大雪のせいでなかなか来ない。
この調子だと飛行機も遅れるだろうなあと、おとっつあんを見ると、
めちゃ不安げな顔をしている。
そりゃそうだ。
おとっつあんはこの旅行をめちゃめちゃ楽しみにしていたのだ。
個人旅行では行きにくい地域のため、
団体ツアーが苦手な、おでは全く乗り気じゃなかった。
衛生状態が悪くて、生水の飲めない地域だから、
お腹の弱い、おではきっと一日中便所にこもることになるだろう。
便所といえば、それも大問題だ。
大草原で便意をもようしたら、やはり、野グソしかないだろう。
もし、尻まるだしにしている状態で、ライオンに遭遇したら?
瞬発力と運動能力が人並み外れて劣る、おでは、食べられるしかないだろう。
「いやだ、まだ死にたくない!」
ネガティブな仮説を立て、行くのはやめようと、説得を何度か試みたが、
おとっつあんは折れなかった。
団体ツアーじゃなくて、ガイド兼運転手さんがおでたちに同行する形だし、
宿泊するロッジは近代的で衛生面には、全く問題ない。
これなら団体行動が苦手で胃腸が弱いおででも大丈夫だから、
と、逆に説得されて、折れたのはおでのほうだった。
やっと、やってきたタクシーで、到着した空港はひとけもまばら。
今日の便のほとんどがキャンセルなのだから、当然なのだけれど、
ひとけのない空港に不安を煽られる。
しかしながら、どうやらおでたちの便は無事に飛ぶようだ。
しかも、時間通りに。
20:40発、ドバイ行き。
そして、ドバイ空港で乗り換える。
ケニアには明日の15:00に到着。
それが、今回のフライトスケジュールだった。
(つづく)